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北陸の音楽シーンに驚愕せよ。TOKEI RECORDS 5周年コンピ『Looks』
REVIEW
2018.01.19 update.
2018年1月10日、以前の記事でも書いた、私が追っかけている地元富山のポストロックバンドinterior palette toeshoesのメンバーが主宰をつとめる、北陸のレーベルTOKEI RECORDS。
そのレーベル設立5周年を記念して、計22組のアーティストが参加するコンピレーションアルバム『Looks』がリリースされた。
そして、その『Looks』のリリースパーティーとして、富山ではお馴染みの蔵元のひとつである砺波市は若鶴酒造の大正蔵(酒蔵を改装したCOOLなコンサートホール)で、コンピ参加うち19組による2日間ぶっ続けのライブが開催され、私は両日とも夕方からの参加ではあったけれど…(何とかして全部観ればよかったと後悔)じっくりどっぷり楽しんできた。
そんでもって、リリースパーティーの前売り2日間通しチケットにCD2枚組の『Looks』自体が付くという、何とも太っ腹な特典により、ひと足早く? ヘビロテして聴くことができたので、その感想も、パーティーのレポートとともに少し書きたいと思う。
空間づくりが素敵すぎたパーティー会場 in 若鶴酒造大正蔵
TOKEI RECORDS5周年記念コンピレーションアルバム「LOOKS」リリースパーティーに来ています。会場は若鶴酒造大正蔵! 古本、コーヒー、お惣菜等々の出店(実家のご近所? 立山サンダーバードも!)、そして何より、コンピ参加うち19組のバンドによる良い音楽! くっっそCOOLな空間です pic.twitter.com/hzGegxE0RG
— LYRICODE (@lyric0de) January 6, 2018
…といった感じで、会場では珍サンドイッチがコアなファンに人気で私の実家のちょい近所の立山サンダーバードと、コーヒーとマフィンのmáni-coffee、お惣菜のお店たかこゆきやさいが出店。
そして私の大好きな富山の古本屋さん、古本ブックエンド・ひらすま書房・よこわけ文庫の出張古本屋さんも!
さらには、入口のフロアで若鶴酒造の日本酒をいろいろ試し飲みもできたりと……もはやちょっとしたフェスの様相。
ステージを上から観るとこんな感じ。
歴史ある酒蔵の雰囲気が各所に生かされていて、もーーーとにかくCOOLな会場だった。
この会場と、私も前々から大好きな素敵なお店たちをこのパーティーにチョイスしたTOKEI RECORDSのセンスにはもう脱帽するしかなく、たとえ出演アーティストを全然知らない人でも「とにかくこの場の雰囲気だけでも味わっていって!!!」とおすすめして回りたくなったほどで、
ライブを聴く前からすでに、「好き………。もう一生ついていきますTOKEI RECORDSの兄貴」といった感じの思いが強まっていたのだった。
実は富山の音楽イベントの立役者?! TOKEI RECORDS主宰山内コウイチ氏の存在感
さて、ここですこーしだけリリースパーティーから話は逸れる、かのように見えて実は本筋の話なのだけれど、
パーティー当日のちょっと前に、こんなインタビュー記事がMikikiに掲載された。
なぜ北陸で独自の音楽カルチャーが生まれたのか? 富山発TOKEI RECORDS主宰が語る、街と風土が育んだサウンドの秘密(インタヴュー・文/渡辺裕也) https://t.co/YQv0errpUL pic.twitter.com/TX4jBMuUhk
— Mikiki 音楽レヴューサイト (@mikiki_tokyo_jp) December 26, 2017
実はこの記事を読むまで、追っかけファンとして大変恥ずかしながら、interior palette toeshoes / smougのギターでありTOKEI RECORDS主宰の山内コウイチ氏が、ここまで富山の、ひいては北陸の音楽イベントにいろいろと関わっている方とは存じ上げていなかった。
そして、そのことをふまえて、コウイチ氏やmiyoさん(interior palette toeshoes / meimeiのピアニスト a.k.a. TOKEI RECORDSデザイン部)をはじめとしたTOKEI RECORDSのメンバーが、出演アーティストやスタッフの方々と連携しながら会場のあちこちで奔走している姿を見ていると、
なるほどこの『Looks』リリースパーティーは、TOKEI RECORDSがこれまで培ってきた、北陸を中心とした各音楽関係者とのネットワークと、イベント運営の手腕、そして何より音楽と地元富山への深い愛のいわば集大成なのだなと、ひしひしと感じた。
(あと、こんなにイベント方面でも精力的に活動していたら、interior palette toeshoes活動歴15年でEP3枚という音源面の寡作さも納得するしかないよなあと…。smougの方はアルバム2枚出てるんだけど。interiorに関しては、こんなにどんよりした音楽←誉め言葉 を作る人たちだからそんなに外交的じゃなさそうという先入観があったのは内緒。でもそうだよね…自分たちでやらなきゃ、こんな田舎でポストロックバンドとかそりゃできないよね…)
多彩なジャンルとの出会いと、驚きの連続。隙のないアーティスト陣
上の記事を読んでいただければ、何となく、『Looks』を中心として「北陸独自のカルチャー」が形成されつつある、ということはおわかりいただけるかと思う。
でも「田舎のインディーズレーベルが主催するコンピアルバムと、そのリリースパーティー」、と聞くと、反射的に「どうせ内輪で褒め合ってるだけで、実のところ音楽のクオリティーは微妙だったりするんでしょ?」と抵抗を覚える人もいるかもしれない。けれど…
とんでもない!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ヤバいです、北陸。チェックしとかないと損です、マジで。と、私は言いたい。
なので、ライブに行かなかった方にも、少しでもこのヤバさを共有するべく…まずは『Looks』のクロスフェード動画を。
それから、TOKEI RECORDSによる『Looks』参加全22組のアーティストの140字以内紹介文も合わせてどうぞ。
で、だ。何がそんなにヤバいのか。
何といってもひとつは、ポストロック~ポストハードコアを中心に、ギターポップやエレクトロ、HIPHOPまで、多彩なジャンルにわたるアーティストたちを擁する懐の広さ。
インスト志向のややマニア層だけでなく、ポップス寄りのライト層も、これを取っかかりに収録アーティストをみんな好きになってしまいそうな、普遍的な魅力がこのアルバムにはある。
リリースパーティーのライブでも、コウイチ氏が「普段聴いたことのないジャンルのバンドも、このライブを楽しんで、それで好きになってくれると嬉しいです」というようなことを言っていて、実際その通りに楽しくて、ポストハードコアやアンビエントをしんみりと聴いていたかと思うと、次のステージではHIPHOPでみんなノリノリで踊ったりプチャヘンザしたりしていた。
そして、それでいて、TOKEI RECORDSが牽引していることによる何かこう、ひとつの大きな流れのような、うねりのような。
地方ならではの独自性を持ちながら、互いがひとつの方向へ向かって切磋琢磨することにより非常にクオリティーの高い、周囲も驚くような音楽シーンが今ここで生まれつつあるのでは…
…と、ぼんやり思っていたことは、ライブを観れば観るほど確信へと変わっていった。
地元びいきも抜きで! 堂々と言おう。「今、北陸の音楽シーンが熱い」と。
雑食を自称する私の気になる&推しバンドはこれだ!
さて、肝心の各アーティストのライブと曲の感想についてだが、ライブに関しては私は残念ながら両日とも途中からの参加だったことと、コンピ参加全22組の紹介としてはTOKEI RECORDSによるものが既にあるので、私のコメントとしては特に聴いてみて気になったバンドと、interiorの出るライブに参加するうちに何度も聴き、すっかり「いつメン・推しメン」になったバンドたちについて言及していきたい。
(全組書けなくてすみません…。ただこれは私の拙い語彙力では言語化できなかっただけで、全曲全ライブがそれぞれにすばらしかった!!! ということは声を大にして言いたいです)
ちなみに、私自身はというと、邦楽/洋楽は問わず、基本的にはポストロック~エレクトロニカ~アンビエント界隈を中心に、親譲りのクラシックやジャズの知見も若干交えつつ、時々バキバキのパンク・オルタナティブや、ゴリゴリのテクノ・EDM、最近ではフリースタイルダンジョンの影響によりミーハー的にHIPHOPにも食指を伸ばしているという超☆雑食リスナーで、『Looks』の曲のラインナップはほぼほぼストライクゾーンであったことをあらかじめお伝えしておく。
ekesetene
えっ…?! 何こののっけからクオリティー高いマスロック…一瞬LITEかと思った…。お隣のお隣の県、福井にこんなすばらしいバンドがあるなんて。今回のライブには出てなくて残念だけれど、機会があったらぜひ聴きに行きたい!
general fuzz sound system
えっ……えっ? 曲づくりが緻密すぎとちゃいますのん…? TOKEI RECORDSファミリーの「いつメン」で富山のポストロックバンド東西の両雄、西のgeneral fuzz sound system。リリパでは1日目のトリにふさわしい、技巧と気迫あふれるすばらしい演奏を頭にぶちこまれ、ライブ3回目の今回にして完全にファンになりました。
interior palette toeshoes
もはや説明不要。富山のポストロックバンド東西の両雄、東のinterior palette toeshoes。リリパでは2日目のトリ。interiorのライブはいつも全身の感覚を傾けて、鳥肌が立つその瞬間を1コンマたりとも逃さないように聴いています。お酒が飲めてたら(車で来たので飲めなかった)もっとトベたのに…というのが唯一の後悔。
oavette
ライブ初見のバンドで一番のツボでした! どちゃくそカッコよくてオシャレなギターサウンドで、ミニマルテクノを思わせる打ちこみ風のストイックな構成の曲が奏でられる。人力で。…と言うとヤバさが伝わるだろうか。
あと、聴いててふと思ったんですが、なんだかんだ私はこういう「ポストロックっぽい」ギターの音がすごい好きなんだなーと。どんなジャンルに浮気しても結局ポストロックに帰ってくるのは、それが理由なのかも? …そして、大好きなテクノの要素+大大大好きなギターサウンド、これすなわち最強。
sabusave
初めてTOKEI RECORDSのライブに行った時、sabusaveが転換BGMを生で弾いていて、それがはちゃめちゃに良い雰囲気を演出しており、ライブが始まる前から「この人たちのセンスやばい」と思ったことをよく覚えています。この空間的で浮遊感のあるギター音が鳴ると、どんな場所も、現代美術館さながらの、代官山も真っ青の超絶ハイファッショナブルかつコンテンポラリーな空気(?)に変えてしまうと思うの。ていうか今回のライブでもコンテンポラリーダンサーさんと共演してたし。この水面で揺れる光のような、適度にふわふわゆらゆらトベる感じは読書などのシーンでも違和感なく馴染み、まさに最適なBGM。個人的ビートレスアンビエント部門No.1です。マジで。
meimei
interiorとはまた一味異なったmiyoさんのピアノが聴ける、ソロプロジェクトmeimei。ていうかていうか、上でも書いたけどTOKEI RECORDSのデザイン部も兼ねられていて、miyoさん多才すぎでは…? interiorでのピアノにはジャズを、meimeiにはクラシックを感じるので、どちらも経由してるの…? やばない…? って感じですし。でもそれでいて、デザインも含めたmiyoさんの作品にはいつも、叙情性とかノスタルジーとか、そんな美しい何かが通底して漂っているような気がします。
shitoneleft
私の中で、ポストハードコアってちょっと(良い意味で)泥臭いイメージがあったんですが、不協和音も用いながら練りに練られた曲づくりのせいか…咆哮ボーカルが入りつつもどこかスタイリッシュ。ライブ観れなかったので、何とかして観ればよかったと後悔していますです…。
film.
TOKEI RECORDSファミリーの「いつメン」、石川の重鎮film. 。general fuzz sound systemと同じくたぶんライブ3回目だと思うんですが、例のごとく完全にこの轟音の虜になりました。film.は、TOKEI RECORDSに端を発する北陸のポストロックシーンの、集合体としての方向性を決定的なものにしている、楔のような存在だと思っています。
やまも
マンドリンを主体とする賑やかでほんわかしたこの音楽性、私の辞書にはなかったジャンルなんですが、幸せいっぱいの中に時おりさりげなく顔を出す切なさ…確かにこれは何だかとっても癖になりそうな。思わず気になる! ボタンをぽちっと押してしまう。そんな不思議なバンド。
ザ・おめでたズ
ライブでは、film.の演奏を聴いてしんみりと余韻に浸っていた直後にザ・おめでたズが突然現れ、180°会場の空気が良い意味で変わるという、えらい体験をした。コウイチ氏曰く「このfilm.からのザ・おめでたズの流れが前からやりたかった」そう。これまた賑やかラップグループといった感じなんですがそれはさておきトラックのクオリティーが高え。2日目に一緒に観に来ていた弊社エンジニアが、お揃いの衣装、お揃いのHIPHOPダンス、そして1メンバーごとのソロパート等々の要素を指して「アイドルグループみたい」と言っていたことが印象に残る。気になる! ボタンぽちり。
YOCO ORGAN
恥ずかしながら今回が初見だったんですが、いやーぶちあがりますねこれは。「2MC、DJはいません! 2人で適当にやってます」とのことですがすごい緻密かつブリブリで超ダンサブルなトラックに、高速フロウが合わさった時の最高潮といったらもう。これは要々々チェックですわ。
smoug
こちらも恥ずかしながら、フルメンバーでのライブは初見。smougの音楽には、富山の空気も感じないことはないんですが、東京・広島のメンバーも交えているせいか? すごく都会的な空気を感じる、ような。以前からApple Musicで聴いていたアルバムはもうすでにBGMの定番になってます。今度能作とコラボしたアルバムを出すらしく、interiorより出世感でてない? 地元にめちゃ貢献しててすごいぞsmoug。もっとやってsmoug。
……以上!
まあつまりは、全体的にヤバいので今すぐ『Looks』を買って聴いて北陸の音楽シーンを知って驚いて、もっともっと盛り上げてください! お願いします!!! 頼む!!!!!
ということです。
TOKEI RECORDS 公式Twitterからの情報によると、今のところ下記の店舗で手に入るようなのでお近くの人はぜひぜひ。チェケラ☆
富山県外:
・原宿 kit gallery – EZ DO SHOP by KONCOS
・LINUS RECORDS(東京)
・渋谷 タワーレコード
・新宿 タワーレコード
・金沢 タワーレコード
…その他、全国流通? ※情報求む!
富山県内:
・古本ブックエンド
・nowhere(1/22追記)
…and more? ※こちらも情報求む!
そして、一クリエイターとしてすごく良い刺激を受けたことについて
長くなりましたが、最後に。
曲がりなりにも私はWebデザイナーというクリエイティブ、とされる仕事に就いているのですが、そんな一クリエイターの端くれとして、『Looks』リリースパーティーというイベントはすごく良い刺激になりました。
裏方では色々大変なこともあったかと思いますが、このイベントに関わったすべての方に、感謝と敬意を。
そして、とても印象的でついうるっときてしまったのが、1日目ラストの、general fuzz sound systemのアコギの方のこんなメッセージ。
「たぶんこの会場には、クリエイティブな仕事をしている人がそれなりの割合でいると思うけど、このイベントにどんどん刺激を受けて、そして一緒に北陸を盛り上げてほしい。この土地は、都会よりもずっと、そういう創作活動をするのにすごく適した場所だと思ってるし、実際こうしてすごいものが生まれてるのを見て、もっともっと一緒にそれを盛り上げてほしい」
そして、その後に続けてコウイチ氏も、
「会場を見てて、『ああ、これがやりたかったことだったんだ』と、ふっとそんなことを思いました。もちろんこれを終着点にするつもりはないけれども」
…はい。その想い、しっかりと受け取りました。
そう、この人の少ない田舎で、クリエイティブというマイノリティーに属し、なおかつ何かを生み出していくにはとてつもないパワーがいる。
でもその分、マイノリティー同士の繋がりが非常に強いし、厳しい環境に対する反骨精神によって、時には都会にも見当たらないような唯一無二のすごいアウトプットが生まれたりするのだ。この『Looks』のように。
一クリエイターとして、願わくは。この『Looks』を起点に、北陸のクリエイティブが爆発的な隆盛を遂げて、田舎と都会の枠をブチ壊すような、そんな存在になりますように。