Text by 坂田 汐里 (https://twitter.com/bbb25252)

出会う人、遊びに行く場所、オシャレなカフェ、就職先…… 都会に比べると、田舎はどうしても選択肢が少なくなります。 富山から若者が離れていくのは、「選択肢が少ないから、富山では自分のやりたいことはできない」そんなイメージからではないでしょうか。 そんな中、お店も働き先もそう多くはない富山の小さな村で、自分らしい暮らしを思い切り楽しんでいる男性がいます。 今回は、利賀村の古民家で「木こり」をしながら暮らす、ウラタシュンゴさんにお話を伺ってきました。  

キャンプ場での出会いがきっかけで「林業」を志す

ウラタさんは、富山市出身。石川県金沢市で美容師として7年間働いた後、介護士として転職し富山に帰ってきました。 利賀村に移住するきっかけとなったのは、趣味だったキャンプです。 休みの度にキャンプ場に足を運んだり、自宅の畑にテントを張って「庭キャンプ」を楽しんだり、キャンプに夢中になる生活を送っていました。 そんなある日、キャンプ場である男性に出会います。 漁業を営む男性は、ウラタさんに生き生きと「一次産業」の魅力を語りました。「海に行って魚を獲るのは、おもしろい!」 この出会いをきっかけに、一次産業に惹かれ始めたウラタさん。 「農業、漁業、林業……この中で自分がやるとしたら、林業かな」と、林業に興味を持ちました。  

「囲炉裏のある大きな古民家」に一目惚れ。利賀村への移住を決める

とは言え、全くの未経験だったウラタさんにとって、林業は未知の世界。 どんな仕事なのか、パッとイメージが浮かびません。 そこでひとまず、富山で開催されている林業の就業支援講習を受講することに決めました。 当時まだ介護士として働いていたウラタさんは、上司を説得し、2週間の講習に参加。 その後1年かけて、実際に林業で働くための準備を進めます。 まず取り掛かったのが、移住先選び。 ウラタさんが掲げた条件は、林業ができること、それから「古民家に住むこと」でした。 しっくりくる空き家を探し各地を巡る中で、出会ったのが利賀村の一軒家。 現在ウラタさんが住んでいる、大きな古民家です。 家のなかにある囲炉裏を見た瞬間、「これだ!」と一目惚れ。 「もうちょっと考えた方が」と周囲に心配されるほどのスピードで即決し、利賀村への移住を決めました。

利賀村の魅力は「四季の移ろいを肌で感じられること」

現在、利賀村へ移住して1年半が経ったウラタさん。 「利賀村の魅力はなんでしょう」と尋ねると、一番は「四季の移ろいを肌で感じられる環境」だと言います。 街中にいると、立春や立冬なんてあまり意識しませんよね。 気づかないうちに過ぎている方が多いのではないでしょうか。 利賀村では、暦通りに季節が変わっていくのが目に見えて分かるそうです。 自然に囲まれた利賀村では、真夏でも窓を開けると涼しい風が入ってきて、クーラー無しでも快適に過ごせます。 夜には息を呑むような星空が広がり、天気が良ければ肉眼で天の川を見られることもあるそう。  

自然と共存する生活の知恵

自然は、良いことばかりではありません。 なんといっても利賀村は、凄まじい雪が積もる豪雪地帯です。 富山市に暮らす私にとっても、雪かきは骨の折れる作業。 「その何倍もの雪をよかすなんて、嫌になることもあるのでは」と思ったら、実はそうでもないそうです。 長年雪と付き合ってきただけあって、村の人にはたくさんの生活の知恵があります。

ある日、雪かきをしていたウラタさんは、近所のおじいちゃんは「そんなに一生懸命やらんでもいいがや」と声をかけられます。 「家の横の溝に、土嚢つっこんどかれ。水が溢れて、雪なんかすぐ融けっちゃ」 言われた通りにしておくと、山からの湧き水で家の周りが川のようになり、やがて雪が綺麗に融けていました。 「こうやってみんな、自然と付き合っとるんや」とウラタさんは感心します。  

自分なりの楽しみ方を見つける

上手く付き合うだけでなく、利賀村で暮らす人達は皆、自分なりの楽しみ方を見つけています。 DIYをしたり、薪ストーブで暖をとったり、畑をしたり かくいうウラタさんも、DIY好きの1人。 ウラタさんの自宅は、「THE古民家」な外装からは想像できないほどのオシャレな空間です。 自分で手を加えたお気に入りのキャンプグッズがあちらこちらに並び、仕事の合間に拾ってきたという植物が飾られています。 部屋でひときわ存在感を放つのが、囲炉裏。 ウラタさんいわく「こんなに遊べるものはない!」というぐらい、囲炉裏のある暮らしを満喫しているそうです。  

「なにもない」が富山の魅力になる

若者の富山離れが問題になっていると聞いたとき、私が抱いた率直な感想は「そりゃ、そうだろうな」でした。 私は富山で生まれ育ち、一旦外に出たけれど、またここに戻ってきました。 けれどそれは、ただ「故郷だから」「他に行くところもないから」というだけで、自分で選んで戻ってきたわけではなかったのです。

ここには懐かしい景色も、愛着もあるけれど、県外の人に「これが富山だ」と呼び込めるだけの魅力を私はまだ知りません。 新鮮な海の幸、豊かな自然がある立山、伝統が息づく五箇山…… どれも富山の良いところです。 しかし、「食べ物が美味しい」「自然が豊か」というのは、どこの田舎でもありふれたフレーズ。 そこに焦点を当てて若者に郷土愛を生み出そうとするのは、難しいのではないでしょうか。

  では、富山の魅力は何なのか。 ウラタさんとお会いして、改めて富山の魅力について考えたときに、「なにもない」というフレーズが浮かびました。   今回お伺いしたウラタさんが暮らす利賀村には、若い子が喜ぶようなものはありません。 コンビニやスーパーも遠く、不便なこともあるでしょう。 けれど私は、魅力を感じました。「こんな場所で暮らしたい」と思いました。 利賀村で暮らす人たちは、ウラタさんを含めて、自然と上手に共存し暮らしを楽しんでいます。 「なにもない」を楽しむその暮らしに、魅力を感じたのです。  

なにもないからこそ、できる楽しみ方もある。 選択肢が少ないなら作ればいい。 ここで暮らす私達が自分らしい暮らしをデザインしながら楽しんでいく。 その姿が何よりの魅力になるのではないかと、私は思います。